メディア・文化産業が人間形成に果たす役割
新藤 浩伸大学院教育学研究科 総合教育科学専攻
マンガ、テレビ、ゲーム、インターネット等々、新しいメディアが出るたびに、俗悪文化として子どもから遠ざけようとするか、教育的に活用しようとするかという双方の力学を大人たちは働かせ、両者のいわば綱引きの中でメディアは社会に受け入れられてきた。 しかし、大人のそうした綱引きを尻目に、あるいはその綱引きをかいくぐるように、子どもたちは新しいメディアを楽しみ、その中で生きてきた。たとえばゲームで育った子どもたちは、ゲームの世界を通して言語や文化、道徳を学び、ヴァーチャル世界とひとくくりにできないある種のリアリティをもって受け止め、それを生きていくうえでの糧にしている部分も大きい。学校で学んだこととは質が違い、時代を共有する感覚の一部にもなっている。また、マンガを買ってもらったり、テレビをみたりゲームをしたりすることを許してくれた(あるいは許されなかった)家庭環境や、それを楽しんだ交友関係といった周辺の文脈、思い出も含めて、子どもたちの財産になっている。 一方大人は、子ども時代の経験を振り返り、噛み砕きながら新たなメディア経験を日常生活、職業生活に組み込み続けている。 功罪を論じることも重要かもしれないが、そうした人間とメディアの関係をまっすぐにとらえ、メディア・文化産業が人間形成に果たす役割を検証しながら、今後のメディアの可能性を探ることは、私たちの生活、メディア・文化産業のありかた双方に大きな可能性をもつのではないだろうか。