鍾 非大学院総合文化研究科 国際社会科学専攻
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中国経済を分析しており、「環境」「信用」をキーワードとする日中協力関係の新しい未来図を目指し、中国へ進出する企業に対し、以下の内容を踏まえた助言が可能である。 日中関係を、新しい視点から考え直すべきだと思う。特に経済面における両国のつながりがますます重要性を増すなか、従来のWin-win型外交路線だけではまったく物足りないからだ。 虚心坦懐に言えば、「ゴルフ外交」など政治家同士の歩み寄りを基本とする日中協力は、もはや限界に来ている。両国がこれまでの日中友好のプラスの財産を積極的に増やしつつ、Win-winをも実現できることは困難である。政治家同士の疑心暗鬼な歩み寄りは、必ずや「Win-lose /Lose-win」をもたらす。決まったサイズの既存利益を、戦略的に譲り合うしかないためだ。ましてや価値観が正反対の隣国はなおさらである。 必要な外交努力のほか、「環境・信用」を二つのキーワードとする日中協力の新しい未来図の輪郭をここでごく簡単に提示することとしたい。併せて、中国への進出を本気で進めたい日本企業に提言させて頂く。 ご存じのように、PM2.5など、中国の大気汚染は日本にも深刻な悪影響を及ぼし始めている。素直に考えれば、環境ほど、両国が築いたプラスの財産を増やしつつ、両国民に真の意味のWin-winをもたらせる分野はあるまい。両国の空の透明度向上を上回るWin-winは考えられない。 空の透明度向上に直接寄与しうることだけを考えているのではなく、再生可能エネルギーの利用を増やすのは環境ビジネスの一環に過ぎない。狭い意味での環境ビジネスのみを提案しているわけではない。中国人の平均余命の向上に直接寄与しうる「富裕層向け健診サービスの新設・拡充」「電気自動車の普及」「電気製品のアフター・サービスのセット販売」「中国人が薬・化粧品を購入する際、きめ細かな説明サービスのセット提供」など中国人、日本人の双方にはっきりとしたメリットがあるビジネス活動の展開を、日本企業にやって頂きたい。真のWin-winはそこからスタートする。 もちろん、医療・自動車・製薬・化粧品産業にとどまらない。たとえば、健診サービスを旅行会社と提携して行えばいい。 大気汚染に起因する中国人の疾患が多い。生活習慣病の患者数も日本と桁が違う。これらを、「信用」が基本である医療ビジネスの展開と結び付けて考える必要があり、換言すれば、13億人の「健康市場」を度外視した対日進出は懐疑的である。 環境面に始まる日中協力は、日本が「信用」を中国に「輸出」することを意味する。従来のビジネス・モデルでは、合理性やそれに基づく「利潤至上主義」が動かぬ大原則。しかし、日本企業が今後とも合理性の一本槍で、中国で金儲けできるとは考えにくい。 習近平政権が打ち出した諸政策は、一昔前の「市場親和型」(or市場の見えざる手)ではなく、政府の「見える手」による役割を強化するところに新味がある。一方、「反腐敗」という「グループ関係」を根底から壊すやり方も台頭し始めている。要するに、共産党の指導力を強めながら、政府と、外資を含む民間企業との結びつきを意図的に弱めようとするのが、ポイントである。 だとすれば、中国に進出しようとする日本企業にとって、かじ取りを大きく変える千載一遇のチャンスが訪れてくる。「無料アフター・サービス」の提供などは費用がかさむ。利潤が減るのはやむを得まい。要するに、規模が今後とも大きく縮小しないだろう中国市場を取り込みつつ、「利潤(=売上-費用)至上主義」から抜け出すことこそ、焦眉の急である。利潤ではなく、「売上最大」のほうが、遥かに現実的だ。 習近平政権が誕生して以来、中国経済は「これから、改革・開放を進めながら、毛沢東時代のやり方を一部復活させるに違いない」と考えられる。これを裏付けたように、旧社会主義や毛沢東思想を支えた滅私奉公の英雄・雷鋒という、「精神的刺激」さえあれば十分で「インセンテイブづけ=物質的刺激」という今までの改革・開放を大成功に導いたものをまったく必要としない、人民解放軍運転手を紹介する書籍が2010年以後、雨後の竹の子の如く現れた(毛沢東と雷鋒については、筆者の論文(「国際社会科学」の64と66)を参照)。問題の核心は、改革・開放と腐敗の大本が、いずれもインセンテイブづけにある、ということである。 習近平が反腐敗運動を、毛沢東思想を蘇らせるかのように大々的に推し進めている。一方、「絶対的な権力は、腐敗を絶対的に生み出す」という見方もある(イギリスの政治家)。習近平を援護射撃すべく、中国に進出しようとする日本企業は「信用」という腐敗を支える「人脈」とえんもゆかりもない斬新な武器を活用し、確実な腐敗根絶に貢献しながら、金儲けすべきだ。それこそ、正真正銘のWin-winであり、これまでの政治家同士が言う「共存共栄」と一線を画す発想である。
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