各種安定同位体比を用いた流域環境と生態系の総合的な評価手法の実用化及び応用・展開
カテゴリー
- 農林水産・食品
- 環境・エネルギー
SDGs
研究内容
我が国では、環境の保全上「健全な水循環」の確保が、環境政策の基本の一つとして謳われており、その実現にむけての様々な取り組みがなされている。さらに、地球規模の気候変動が水循環や流域環境に与える悪影響がますます懸念されるなか、特に影響の大きい東アジア諸国を含めて、持続可能な水利用システムの確保にむけた、緩和策や適応策の検討も急務の課題となっている。これらの問題の解決において、水循環や流域環境(物質循環、生態系)の状態を、できるだけ精確かつ簡便に評価することは、もっとも基本的な課題の一つであろう。これらの客観的な情報は、水資源や水環境の管理、利用、保全に関わる主体間での合意形成や、対策の立案、また、施策効果の評価のうえでの重要な判断材料となるからである。
新しい状況への対応や、複雑な流域システムの把握のため、従来から流域環境の評価に用いられてきた全リン、全窒素、BOD、CODといった水質指標や、各種の生物指標などに加えて先端的な技術を利用した、より詳細かつ効果的な流域環境評価手法の開拓が求められている。
以上のような背景をふまえ、本研究室では、先端的な安定同位体精密分析技術を駆使した、新しい流域環境評価手法の構築を提案した。環境中に存在する元素(炭素、窒素、酸素など)の安定同位体比には、水や物質の起源や、生態系の状態に関する情報が記録されている。そこで、我々は、流域圏の様々な構成要素がもつ各種安定同位体比を、先端的な技術を駆使して体系的に調べ、そこに刻み込まれた情報を解析するとともに、得られた知見の総合化を行った。
「流域環境評価と安定同位体-水循環から生態系まで」永田俊・宮島利宏編
© 永田 俊
想定される応用
その結果、以下に例示するような新たな環境診断手法の提案に結びついた。
1)硝酸イオンの窒素・安定同位体比に基づく河川への窒素負荷源の査定。
2)河畔植物の窒素同位体比による河川環境の評価。
3)溶存有機物の炭素安定同位体比による汚濁性有機物の負荷源の査定。
4)溶存無機炭素の炭素安定同位体比による汚濁性有機物の負荷源の査定。
5)アミノ酸の化合物別窒素安定同位体比による食物網構造の査定。
本研究によって開発された新たな環境診断手法のいくつかについては、「研究段階」から、「現場への実装」の段階への移行が可能であると考えている。さらに本手法は、環境診断以外にも、食品の真贋判定、作物の生育環境評価といった多方面への応用・展開が考えられる。
連携への希望
このような研究に興味のある企業・団体からのコンタクトを希望する。
関連情報
関連図書
「流域環境評価と安定同位体-水循環から生態系まで」永田俊・宮島利宏編 (京都大学学術出版会、平成20年2月、476頁)
公開日 / 更新日
- 2021年11月22日
識別番号
- No. 00032-01