東京大学産学連携プロポーザル

海外展開を支える日本本社のあるべき姿の探求:強い海外子会社を作り上げるためには?

カテゴリー

  • 経済・経営・政策・法律

SDGs

研究内容

本研究者は、海外展開が求められる日本企業において必要とされる日本本社のあるべき姿を、「強い海外子会社を作る」という視点から、定性的・定量的に明らかにすることを目指している。
一般的に日本企業の国際経営は批判されることが多い。これは国際経営論の分野でも同様である。よくある批判は「本社中心で海外子会社に権限を与えられていない」「日本人社員中心で外国人社員を使いこなせていない」「本社及び日本人社員のグローバル化ができていない」などである。いずれにしても、日本企業の本社に問題があるのではないかという指摘がなされてきた。
それに対して本研究者は、「海外子会社を作る」という視点から、日本企業の本社が考えるべきことをこれまで研究してきた(大木, 2014)。近年では2016年に、東南アジアの日系海外製造子会社約1700社(返答率は約20%)に対する質問票調査を行っている。この調査から、パフォーマンスの良い海外子会社、およびパフォーマンスの良い海外工場には、以下のような特徴があることが、現時点で明らかになっている。

【良い海外子会社の特徴】
①本社との海外子会社のコミュニケーション
 両者の間のコミュニケーションが高頻度な海外子会社ほどパフォーマンスが良い。特に「報告書ベース」のコミュニケーションが頻繁に取られている。
②海外子会社への権限委譲
 権限が委譲されている海外子会社ほど、パフォーマンスが良い。
③買収した海外子会社に対する拠点間競争
 買収した海外子会社においては、他の自社の海外子会社との間の競争を促すようなマネジメントがなされているほど、パフォーマンスが高い。
※海外子会社のパフォーマンス=競合と比較したときの主観評価

【良い海外工場の特徴】
①海外工場への権限委譲
 権限が委譲されている海外工場ほど、パフォーマンスが良い。
②駐在員への権限委譲
 海外工場に権限を委譲するとしても、現地の駐在員(日本人)権限を委譲している海外工場ほど、パフォーマンスが良い。この傾向はその海外子会社の日本人駐在員が少ないほど、顕著になる。
※海外工場のパフォーマンス=グループ内の他国工場と比較した時の主観評価

 このような分析結果から、本社がまず考えるべきマネジメントとして「海外子会社とのコミュニケーション」「権限委譲」「拠点間競争」を提起している。しかし、これらの結果について、東南アジア以外への適用可能性の検討、因果関係の実証、および実際にこれらを実行するために必要な本社の機能・システム・人材の議論は今後の課題である。

 

海外子会社のパフォーマンスと関係を持つマネジメント要因
本社と海外子会社がコミュニケーションをとっているほど、海外子会社に権限が与えられているほど、また、買収した海外子会社においては拠点間競争の圧力が高いほど、海外子会社のパフォーマンスが良い。
© 大木清弘

海外工場のパフォーマンスと関係を持つマネジメント要因
海外工場に権限が与えられているほど、その中でも駐在員に権限が与えられているほど、海外工場のパフォーマンスは良い。また、駐在員とパフォーマンスの関係は、その子会社の駐在員数が少ない場合、より顕著になる。
© 大木清弘

想定される応用

本研究を通じて、海外子会社に対して、科学的に見てより良い方法でマネジメントができるようになる。海外子会社に対して必要なコントロールと自律性のバランス、すなわち求心力と遠心力のバランスを解明することで、グローバル本社の能力を高めることができる。

連携への希望

 そこで本研究者は、海外事業を支える本社のマネジメントに興味をもたれている実務家とのコラボレーションを求めている。具体的には、本社の海外事業担当者、海外子会社の運営に携わっている駐在員、将来のグローバル人材候補などである。これらの方々と各社の本社のありかたについて議論させていただく中で、我々は実務家の皆様に学術的な視点からのコメントを提供する一方、事例研究のフィールドを頂戴したいと思っている。なお、研究を行う際に、先方の許可なく情報を公表することはなく、過去に情報流出の経験もない。
 以上のような議論を行うことで、最終的には日本を「本社立国」にできる可能性を検討したい。これは、税制の優遇などの立地優位性の議論ではない。日本的経営に見られるような、長期的な視点に基づく経営、または現場を重視する経営の良さを残しながらも、海外子会社をしっかりとマネジメントすることで、他国の企業人からも「日本企業のグループ会社で働きたい」「日本企業の本社で働きたい」と思われるような本社を作り上げることである。例えば、「この会社ならば長期的な視野で技術を大事にしてくれるから買収されたい」というような買収案件が持ち込まれるような本社である。このような本社を持つ企業が増えれば、日本の経済成長も期待できる可能性がある。そのような可能性も模索したい。

関連情報

【参考文献】
大木清弘 (2014)『多国籍企業の量産知識:海外子会社の能力構築と本国量産活動のダイナミクス』有斐閣.

公開日 / 更新日

  • 2022年01月26日

識別番号

  • No. 00123-01

カテゴリー

  • 経済・経営・政策・法律

SDGs

公開日 / 更新日

  • 2022年01月26日

識別番号

  • No. 00123-01