大木 清弘准教授
大学院経済学研究科 マネジメント専攻
SDGs
連携提案
「一見正しいと言われていることが本当は間違っているのではないか?」「一見正しくないとされてきたやり方が別の角度では正しい側面があるのではないか?」このような考え方を基本的な視点に、経営学の研究をしている。
専門領域は国際経営であり、日本企業の製造業を中心に、海外子会社のパフォーマンス向上に必要なマネジメントについて、定性・定量の両面から研究をしている。海外子会社に注目しているのは、日本企業の本社から見ると時に軽視されがちな拠点であり、そこに存在する論理を学術的な立場で掘り起こすことで、本社が正しいと思っていることを相対化し、日本企業がグローバルに展開するにあたって必要なマネジメントが浮き彫りになると考えているからである。特に「日本拠点からの支援」「日本拠点からの自律性」「ヒト・モノの現地化」「日本拠点を含めた他国拠点との競争・協調関係」が海外子会社のパフォーマンス向上に与える影響に注目している。また、優れた駐在員や工場長を育成するための人事施策についても研究している。
国際経営以外でも、「一見正しいと言われていることが本当は間違っているのではないか?」という視点から、いくつかの研究をしている。下記がその一覧である。これらの詳細は個別のところで記入している。
1)日本のものづくり企業の組織にあった形のIoTの研究(コールセンターも含む)
2)人的資本の情報開示(ISO30414)が企業に与える影響に関する研究
3)「組織変革を若手に任せる」という一見聞こえの良い「若手改革プロジェクト」の問題に関する研究
これらの研究に関心のある企業と議論しながら応用・実装にむけた連携を展開したい。まずは、一緒にコーヒーを飲んでラフに話し合う程度のお付き合いからも大歓迎である。
事業化プロポーザル
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海外展開を支える日本本社のあるべき姿の探求:強い海外子会社を作り上げるためには?本研究者は、海外展開が求められる日本企業において必要とされる日本本社のあるべき姿を、「強い海外子会社を作る」という視点から、定性的・定量的に明らかにすることを目指している。 一般的に日本企業の国際経営は批判されることが多い。これは国際経営論の分野でも同様である。よくある批判は「本社中心で海外子会社に権限を与えられていない」「日本人社員中心で外国人社員を使いこなせていない」「本社及び日本人社員のグローバル化ができていない」などである。いずれにしても、日本企業の本社に問題があるのではないかという指摘がなされてきた。 それに対して本研究者は、「海外子会社を作る」という視点から、日本企業の本社が考えるべきことをこれまで研究してきた(大木, 2014)。近年では2016年に、東南アジアの日系海外製造子会社約1700社(返答率は約20%)に対する質問票調査を行っている。この調査から、パフォーマンスの良い海外子会社、およびパフォーマンスの良い海外工場には、以下のような特徴があることが、現時点で明らかになっている。 【良い海外子会社の特徴】 ①本社との海外子会社のコミュニケーション 両者の間のコミュニケーションが高頻度な海外子会社ほどパフォーマンスが良い。特に「報告書ベース」のコミュニケーションが頻繁に取られている。 ②海外子会社への権限委譲 権限が委譲されている海外子会社ほど、パフォーマンスが良い。 ③買収した海外子会社に対する拠点間競争 買収した海外子会社においては、他の自社の海外子会社との間の競争を促すようなマネジメントがなされているほど、パフォーマンスが高い。 ※海外子会社のパフォーマンス=競合と比較したときの主観評価 【良い海外工場の特徴】 ①海外工場への権限委譲 権限が委譲されている海外工場ほど、パフォーマンスが良い。 ②駐在員への権限委譲 海外工場に権限を委譲するとしても、現地の駐在員(日本人)権限を委譲している海外工場ほど、パフォーマンスが良い。この傾向はその海外子会社の日本人駐在員が少ないほど、顕著になる。 ※海外工場のパフォーマンス=グループ内の他国工場と比較した時の主観評価 このような分析結果から、本社がまず考えるべきマネジメントとして「海外子会社とのコミュニケーション」「権限委譲」「拠点間競争」を提起している。しかし、これらの結果について、東南アジア以外への適用可能性の検討、因果関係の実証、および実際にこれらを実行するために必要な本社の機能・システム・人材の議論は今後の課題である。
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「IoTを活用する経営」の探求:事実情報をいかに活用するか?近年、IoT(Internet of Things)の活用に関する議論が活発化している。企業の中でも、顧客の購買データの活用による需要予測、生産現場のデータの活用による生産性向上、各部門の情報共有によるサプライチェーンの最適化、AIの導入による低付加価値活動の削減等に、IoT等のITが活用されている。 しかし、これまでの企業におけるITの活用の議論は、「ITでできること」の把握からはじめて、企業内でその活用方法が議論される傾向にあった。そのため、現在の競争環境において求められる経営体制の把握からはじめて、その実現のためにITをどのように活用するべきかという、経営の視点からからITを見る議論は少なかった。そのため、ITの活用をIT部門に丸投げしてし、IT部門が他部門との関係に悩んでしまうケースや、ITの活用の範囲が各部門の「困り事」の解決にとどまるケースも見られている。 そこで本研究者は、近年の企業に求められる経営を明確にした上で、その実現のためにどうIoTを活用すべきかを探求している。具体的な研究テーマは以下である。 ①近年の企業に求められる経営像 まず、近年の企業に求められる経営像の探求を行っている。そのひとつの姿として、本研究ではグローバルな経営環境の変化/変動に対応するために、「様々なところで起こっている事実を迅速かつ正確に把握し、組織メンバーが共有し、解釈し、実行する」という「事実情報ベースのマネジメント(奥・大木、2017年)」に注目している。事実情報とは「企業活動に関連したイベント全て(イベント情報)とそれに関連する情報(背景情報、説明情報)を統合化した情報」のことである。このような事実情報ベースのマネジメントは、現地・現物の観察や、組織メンバーによる多様な解釈を重視してきた日本企業の強みが活かしやすいマネジメントであり、欧米企業との差別化につながりうるマネジメントである。このようなマネジメントの有効性、具体的な姿、適用条件などを、文献調査、事例調査、定量調査から探求している。 ②事実情報ベースのマネジメントを実現するIoTの活用 次に事実情報ベースのマネジメントを実現するうえで、求められるIoTの仕組みや、それに対応した組織デザインを探求している。例えば、IoTによる事実情報の取得方法(奥、2013年)や、事実情報を様々な階層で議論する場のマネジメント(大木・奥、2017年)などである。実際にIoTをうまく使っている企業や、これから導入しようとしている企業の事例調査から、どのようなIoTの活用方法が望ましいのかを探求している。
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人的資本の情報開示(ISO30414)が企業に与える影響に関する研究本研究は近年世界を取り巻く「グローバルな制度的な圧力」に対して、日本企業がどのように対処すべきかなどを、人的資本の情報開示の観点から明らかにしていくことが目的である。 企業は制度(法律だけでなく、世の中の規範や文化も含む)に適応しなければ生き残ることができない。それは「正統性(legitimacy)」を得られないからである。しかし近年は、そうした制度が、日本だけでなく、海外から唐突に入ってくることもある。グローバルに活躍する日本企業は、こうした制度に対応できなければ、グローバルな評判を落とすことになりえる。 そこで、本研究はグローバルな制度圧力に対して、日本企業としてどのように対応すべきかを、大きなクエスチョンにして、研究を行う。具体的には「どのような企業がスピーディに対応できるのか」「スピーディな対応は業績につながるのか」の二つを、様々な公刊データや企業の個別事例から明らかにしていきたい。 具体的に扱うのは、人的資本の情報開示のトレンドである。2021年度以降、日本の株式市場でも、人的資本の情報開示の圧力は強まっている。これにどのように対応するのかについて、現在研究者は外部団体の協力も得ながら、研究を進めている。現状、各種のアニュアルレポートの分析という、二次データによる定量的な分析は出ているが、企業の内部のより深いデータや、当事者たちの考えを知ることは難しい。 そのため、上記のようなトレンドにお悩みの企業がいれば、共同研究を通じて、上記の問題意識を一緒に考えていきたい。現状の本研究室からは、ISO30414に関する独自の尺度(Human capital disclosure index: HCDI)を用いたアニュアルレポートの分析を通じて、2022年時点で各社がどのように対応しているのかの分析結果を提示することはできる。また、HCDIの測定方法についても、こちらのサイトに記してある。さらに既に人的資本の情報開示に関する書籍(分担執筆)もしており、それに基づいた議論もできる。また、こうしたトレンドへの理解がある外部団体や他社との橋渡しもできる。 現在進行形のテーマのため、まずはどのような共同研究の形が模索できるのかの狭義から始めていければ幸いである。
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「若手プロジェクトを救う」プロジェクト本研究は2022年度からの始動を目指しているプロジェクトである。テーマは「若手プロジェクトを救う」ことである。 近年、多くの企業で若手によるプロジェクトが行われている。「先のことは若い人に考えてほしい」「若い人の柔軟な思考が必要だ」「若い人の活性化にもつながるはずし、良い経験になるだろう」「自分たち老害は一歩引いた方が良い。多くはそういう「善意」からこうしたプロジェクトが行われている。具体的には新規事業開発、会社の30年後の姿を考える、新たなミッションを考える、などなどだ。 しかしそのプロジェクトの成果はどうだろうか?上手く行っているプロジェクトもあれば、もはや形骸化しているプロジェクトもあるだろう。本研究者は特に「後者」に関する声を聴くことも多く、自身も比較的「若手」として組織を見た時に、感じることもある。もし若手プロジェクトが上手く行かないのであれば、それはなぜなのか。若手の本音、マネジメント層の本音はどうなのだろうか。そもそもなぜ「若手」という年齢で区切って我々はプロジェクトを任せるのだろうか。というか、若手とは何歳のことなのか…こうしたことを一つ一つ紐解くことにより、死蔵する「若手プロジェクト」を減らしていきたい、というのが本研究の狙いである。 若手プロジェクトが上手く行かない企業、若手プロジェクトが上手く行っている企業、若手プロジェクトをこれから始めようと思っている企業、違和感を持っている企業。どのような企業でも、是非ともお話をさせていただきたい。皆様の知見を集め、書籍化をすることで、世の中の若手が本当に改革の旗印となるための手助けをするような研究を目指している。 具体的な研究プロセスとしては、本研究者は若手プロジェクトに関する過去の事例、既存研究などを整理し、日本企業で過去どのように扱われてきたのかを整理する。その上で企業の協力をいただいたうえで、成功事例も失敗事例も、必要ならば匿名性を担保したうえで、なぜ成功したのか、なぜ失敗したのかを明らかにしていきたい。そうした既存研究レビュー、過去の事例整理、そして最新の事例の分析を通じて、若手プロジェクトの問題の根幹を1年、ないし2年間で明らかにしていきたい。 企業として興味を持った場合は、産学連携を通じてご連絡をいただきたい。個人として興味を持った場合は、このサイトではなく、個人のアドレスに直接コンタクトをして欲しい。