高精度数値シミュレーションによる海洋環境と水産資源の変動予測
カテゴリー
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SDGs
研究内容
地球温暖化が進行し、全地球規模の環境劣化が懸念される中、食料となる海洋生物資源 (水産資源) の安定的な確保は極めて重要な課題の一つとなっている。最近の研究によると、海洋生物資源の変動は海水温や海流といった海洋の物理環境の変動と密接に関係することが明らかになっており、海洋物理環境の変動メカニズムの解明と将来予測の実現は、資源管理を適切に行い、漁業の生産性を上げるための喫緊の課題となっている。近年、コンピュータ技術が急速に進展し、人工衛星や自動観測ブイ等の観測機器の発達により、現時点では物理環境のみに限定されるものの、2カ月程度先までの海洋環境を天気予報のようにスーパーコンピュータを用いて予測することが可能である。そして、次のステップとして、プランクトンや魚類も含めた海洋生態系の変動予測の実現に期待が集まっている。この研究室では、海洋生態系の変動機構の解明と将来予測の実現に向けて、人工衛星の海面水温・高度データをシミュレーションモデルに融合した海洋大循環モデルをベースとし、これに食物連鎖や魚類の回遊・生残といった海洋生態系のプロセスを組み込んだ高精度の「3次元海洋データ同化生態系モデル」を世界で初めて開発し、各種の研究課題に取り組んでいる。下記に代表的なものを列挙する。
(1) 全球規模の気候変動が海洋生態系に及ぼす影響の予測
地球温暖化に代表される全球規模の気候変動によって数10年~100年後の海洋生態系がどのように変化し、海洋生物資源の分布や生物量がどのように変化するかといった影響予測の研究を実施している。図1は、モデルで推定した日本周辺海域の植物プランクトンの分布で、人工衛星による観測値を良く再現していることが分かる。
(2) 日本近海の多獲性魚類の資源加入量の変動メカニズムの解明と予測
例えば、日本近海で漁獲されるマアジは主に東シナ海南部で発生していることが知られており、このモデルを適用してマアジの卵・仔稚魚の輸送過程を追跡したところ、仔稚魚の生残は東シナ海域の海流と水温に密接に関係し、近年の資源加入量の変動は、仔稚魚の輸送経路上の水温変動と高い相関関係にあることが分かった。図2は、九州西方沖~日本海で漁獲された当該年生まれのマアジの尾数とモデルによる推定結果の比較である。モデルは年ごとの変動を良く再現していることが分かる。
(3) 有害生物・物質の拡散・輸送予測
このモデルは、近年日本海の定置網漁業等に甚大な被害をもたらしているエチゼンクラゲの発生海域と発生時期の推定、並びに黄海・東シナ海沿岸域から日本沿岸域への来遊予測や流出原油等の有害汚染物質の拡散・輸送予測にも利用されている。
図1 1998年4月25日の植物プランクトン現存量分布 (海表面クロロフィル濃度) のモデル推定値と人工衛星による観測値の比較
海洋データ同化モデルにより黒潮の流路や冷・暖水塊の配置が高精度に再現可能になり、海洋生態系の推定精度が格段に向上した。
© 小松 幸生
図2 マアジ対馬暖流系群0歳魚漁獲尾数とモデル生残粒子数との比較
3次元海洋データ同化生態系モデルをベースにマアジ卵・仔稚魚を想定した粒子輸送モデルで、九州沖~日本海にかけて漁獲されるマアジの新規加入量の年々変動の傾向を推定することが可能である。
© 小松 幸生
想定される応用
なお、このモデルは、沖合・遠洋域での適用にとどまらず、沿岸域の赤潮や貧酸素水塊の発生と分布の予測などにも適用することが可能である。
連携への希望
以上の研究に関心を有する企業・団体との共同研究やコンサルテーションを行う用意がある。
公開日 / 更新日
- 2021年12月22日
識別番号
- No. 00128-01