秋月 信准教授
大学院新領域創成科学研究科 環境システム学専攻
SDGs
連携提案
超臨界流体に代表される高温高圧流体の高度利用に着目し、特に高温高圧状態の水が持つ特徴的な物性を利用した化学反応制御や環境調和型プロセスへの応用に関する研究を行っている。高温高圧水は、有機物が可溶・無機物が不溶という特徴的な性質を有し、また密度やイオン積、誘電率、拡散係数、粘度といった溶媒物性が、温度と圧力によって大幅に可変という特徴を持つ。このような特徴は、有機反応や無機晶析反応の高速な進行だけでなく、それら化学反応の制御を可能にするため、無害かつ安価という水の特徴と相まって、有機合成や未利用資源変換、廃棄物処理やリサイクル、無機材料合成における新規環境負荷低減技術として、幅広い利用が期待されている。
研究成果の応用・実用化に関心のある企業との連携を希望する。
事業化プロポーザル
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超臨界水を利用した金属酸化物ナノ粒子の合成金属塩の水溶液を急速に超臨界状態にすると、金属塩の溶解度が急激に低下することで大きな過飽和度が与えられ、金属や金属酸化物のナノ粒子が生成する。この手法は超臨界水熱合成法と呼ばれ、粒径や分布を制御したナノ粒子を合成可能な技術として注目されている。 この研究室では、イオン伝導体や誘電体、光触媒などの分野で応用が期待される複合酸化物ナノ粒子の合成について検討を進めている。特にBaZrO3ナノ粒子の合成について、ミリ秒オーダーでBa欠陥の多い構造が形成した後、秒オーダーでBaが取り込まれるという粒子の詳細な生成機構を明らかにし、反応時間の制御でナノ粒子の物性に大きく寄与するBa欠陥量の制御が可能であることを見出している。また酸化セリウムナノ粒子の合成について、温度に応じた晶析過程の違いを適切に利用することで、粒径分布を大きくせずにサイズを制御できる可能性を見出している。このように、ナノ粒子の生成機構の解明とそれに基づいたナノ粒子の物性制御を得意としている。 また、超臨界水中ではナノ粒子と有機修飾剤が共存する場合、粒子表面をその場で修飾したナノ粒子の合成が可能である。このような有機修飾を行うことで、ポリマーへの良分散性を獲得することや、ドラッグデリバリーなどに利用することが可能となる。この研究室では、有機ケイ素化合物による表面修飾銅ナノ粒子・表面修飾酸化鉄ナノ粒子の合成が可能であることを見出しており、反応時間や修飾剤導入のタイミング等の制御による表面修飾量の制御を目指した検討を進めている。
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超臨界水を利用した廃棄物からの有価金属回収超臨界状態の水は、誘電率が低いことから、樹脂や油などの有機物をよく溶解する一方、金属などの無機物の溶解度は低い。この特徴を利用することで、有機物と有価金属が混合した廃棄物から、金属のみを効率的に分離回収することが可能になる。またこの時、有機物に関しては樹脂のモノマーや油として回収することや、処理に酸素を共存させることで二酸化炭素まで完全に酸化分解することが可能である。 この研究室では、酸化鉄と研削油の混合物である製鉄スラッジからの酸化鉄回収や、シリコンと研削油の混合物であるシリコンスラッジからの金属シリコン回収、プリント基板からの金・銅回収、レントゲンフィルムからの銀化合物回収に本技術が有効であることを見出している。また、有機物が分解する際の金属との相互作用を利用することで回収資源の酸化数を変化させることが出来ることや、装置設計(半回分式装置の利用)により回収資源の純度を向上出来ることを明らかにしており、回収資源の付加価値向上に向けた方法論の検討を進めている。
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超臨界水酸化反応を用いたオンサイト型有害廃液・廃棄物処理システム超臨界状態の水中では、有害物質の酸化分解反応が極めて高速に進行する。超臨界水酸化と呼ばれるこの反応は、新しい有害な化学物質の処理法として期待されており、その利用によって、各種有害廃液や有害廃棄物を排出された原点(オンサイト)で処理するためのコンパクトな処理装置の構築が可能となる。 この研究室では、有害廃液の処理について二酸化マンガン等の固体触媒を併用すると、有害物質の分解がさらに高効率かつ完全に進行することを見出している。企業の共同研究を通じて、実験室から排出される有機系廃液のオンサイト処理装置を開発している。 一方、医療廃棄物をはじめとする有害廃棄物は、その処理を厳重に行う必要性が高まってきている。現在主に行われている廃棄物の集約後に焼却する処理は、有害廃棄物の移動に伴う環境漏洩、不適切処理等のリスクを抱えており、その解決には排出された場所(オンサイト)で処理するシステムの活用が有効である。 この研究室では、超臨界水酸化反応を利用することで、感染性物質の付着が懸念される注射器などの医療系廃棄物を使用後そのままの状態で完全酸化分解し、原形を残さずにオンサイト処理を行う処理システムの開発を行っている。この”魔法のゴミ箱”とも呼べる処理システムは、超臨界状態の水中では有機物質の酸化分解反応が400~500℃程度の比較的低温で、またコンパクトな装置で行えるために可能となるものである。 この技術は医療系廃棄物だけでなく、管理や移動にリスクを伴う様々な有害廃棄物に適用可能と考えており、近年ではふぐ含毒部位の処理に利用可能であることを報告している。
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超臨界水を溶媒とした有機合成反応・未利用資源の化学原料化超臨界・亜臨界状態の水(以下、高温高圧水)は、常温常圧の水とは大きく異なる物性を示し、特に誘電率やイオン積が温度・圧力と共に大きく変化する。このようなチューナブルソルベントとしての性質を持つ高温高圧水は、水の持つ安価・安全であるという性質と相まって、新しい環境調和型反応溶媒として注目されている。 有機合成においては、人体や環境への負荷が大きい有機溶媒を、環境負荷が小さく安価な水で置き換えることが期待されている。この研究室では、高温高圧水には水でありながら有機化合物が溶解することを利用し、様々な有機合成反応の研究を進めている。特に、高温高圧水と固体酸・塩基触媒の組み合わせに着目した研究を進めており、オレフィンの水和反応やアルドール縮合反応が高速に進行することを明らかにしている。 またこの時、亜臨界水の高いイオン積によって、オレフィンの水和反応が著しく加速されることや、超臨界水の密度変化に応じて、グリセリンの脱水反応の生成物選択性を制御出来ることなど、溶媒物性と固体触媒の組み合わせにより多彩な反応制御が可能であることを見出している。 上記のような高温高圧水中の反応は、石油に代表される既存の化成品原料を、環境負荷の小さい未利用資源に置き換えるためにも利用可能である。この研究室では、バイオディーゼル燃料の副生成物であるグリセリンから、化成品原料として重要なアクロレインを合成できることを明らかにしている。また、松ヤニに含まれるαーピネンを有用なテルペン類に変換する異性化反応において、高温高圧水と固体触媒を組み合わせた反応ならではの生成物選択性を得られることを報告している。