虚血性脳疾患における脳内グロビン蛋白質の神経細胞死防止機能の発見と応用
若杉 桂輔大学院総合文化研究科 附属教養教育高度化機構
脳卒中は、突然に脳血管の破損(脳出血、くも膜下出血)や閉塞(脳梗塞、脳閉塞)のため、脳細胞に栄養や酸素が供給されなくなる虚血性疾患で、直ちに処置しなければ、半身マヒや言語障害、意識障害などの重篤な神経障害をもたらす。近年、脳内には特異的に発現しているグロビン蛋白質であるニューログロビン(Ngb)の存在が知られていたが、機能の詳細は未知であった。 この研究室では、医療に貢献できる新機能性蛋白質の開拓を目指している。最近、ヒトNgbが虚血・再潅流(酸化ストレス)時に立体構造を大きく変え、細胞内シグナル伝達蛋白質と結合して、神経細胞死を防ぐことを発見した。この結果から、グロビンは酸素結合蛋白質としてだけ働くという従来の固定観念をくつがえし、酸化ストレス応答性のシグナル伝達センサーとして機能するという全く新たな概念を打ち立てた。 更に、ゼブラフィッシュのNgbは細胞膜貫通性があることに着目し、ヒト及びゼブラフィッシュNgb間の新規キメラ蛋白質を創製した。このキメラ蛋白質は神経細胞の外に加えるだけで細胞内に導入され、虚血・再潅流時に細胞死保護作用を発揮させることに成功した。