「IoTを活用する経営」の探求:事実情報をいかに活用するか?
大木 清弘大学院経済学研究科 マネジメント専攻
近年、IoT(Internet of Things)の活用に関する議論が活発化している。企業の中でも、顧客の購買データの活用による需要予測、生産現場のデータの活用による生産性向上、各部門の情報共有によるサプライチェーンの最適化、AIの導入による低付加価値活動の削減等に、IoT等のITが活用されている。 しかし、これまでの企業におけるITの活用の議論は、「ITでできること」の把握からはじめて、企業内でその活用方法が議論される傾向にあった。そのため、現在の競争環境において求められる経営体制の把握からはじめて、その実現のためにITをどのように活用するべきかという、経営の視点からからITを見る議論は少なかった。そのため、ITの活用をIT部門に丸投げしてし、IT部門が他部門との関係に悩んでしまうケースや、ITの活用の範囲が各部門の「困り事」の解決にとどまるケースも見られている。 そこで本研究者は、近年の企業に求められる経営を明確にした上で、その実現のためにどうIoTを活用すべきかを探求している。具体的な研究テーマは以下である。 ①近年の企業に求められる経営像 まず、近年の企業に求められる経営像の探求を行っている。そのひとつの姿として、本研究ではグローバルな経営環境の変化/変動に対応するために、「様々なところで起こっている事実を迅速かつ正確に把握し、組織メンバーが共有し、解釈し、実行する」という「事実情報ベースのマネジメント(奥・大木、2017年)」に注目している。事実情報とは「企業活動に関連したイベント全て(イベント情報)とそれに関連する情報(背景情報、説明情報)を統合化した情報」のことである。このような事実情報ベースのマネジメントは、現地・現物の観察や、組織メンバーによる多様な解釈を重視してきた日本企業の強みが活かしやすいマネジメントであり、欧米企業との差別化につながりうるマネジメントである。このようなマネジメントの有効性、具体的な姿、適用条件などを、文献調査、事例調査、定量調査から探求している。 ②事実情報ベースのマネジメントを実現するIoTの活用 次に事実情報ベースのマネジメントを実現するうえで、求められるIoTの仕組みや、それに対応した組織デザインを探求している。例えば、IoTによる事実情報の取得方法(奥、2013年)や、事実情報を様々な階層で議論する場のマネジメント(大木・奥、2017年)などである。実際にIoTをうまく使っている企業や、これから導入しようとしている企業の事例調査から、どのようなIoTの活用方法が望ましいのかを探求している。